築30年の日本家屋をリノベした、浮世離れの家。

湘南の東の端は葉山辺りを境とするのだろうが、さらに南下する横須賀市になる秋谷は
いっそうゆるやなか空気感が漂っている。
そんな秋谷の奥まった丘の上にY邸がある。
初めての人ならおそらくこの家にたどり着くことは難しい。
引っ越した当時は郵便物が届かなかったそうだ。

細い道を抜けるとY邸がどんと開ける。
海に向かってひな壇の最上に建つ、築年数およそ30年の住宅をリノベーションした、まるで竜宮城のような趣き。
首を後ろに折るようにして見上げると、右手が母屋、左手には雰囲気のいい茶室が鎮座している。
母屋のドアを開くと3階上まで直線につづく長い階段。
左手に整然と各居室がひな壇で連なっている。
と、解説するのも難しい。

少女の部屋のようにかわいらしく使われているおばあさまの間。
バスルーム。
そしてこの家の中心的ステージのリビングは、ハワイアンテイストに仕上げられたリゾート感たっぷりの全くの別空間だ。
ここからのビューは水平線を手に取るような感覚。

「人気がない。音がない。鳥の声と波の音。五感が高まりますよ。湘南ならこのあたりが最高かな、と思ってたんですよ」
 きらきらとした海を眺め、鳥の声を聞き、風にそよがれ、月を愛でる。
こんな「浮世を離れた暮らし」はそう滅多にない。

300坪もの敷地にゆったりとしているから暮らしやすい?
「いいえ、冬は寒くて夏は暑いですよ」
それもまた人生です、とも言いたそうに聞こえる。
浦島太郎にでもなったのではないかしら、と、
おもわず僕は頭の毛を鏡で見るのだった。